東京の外れでワトソンを殺した

ワトソンは外国の中古車でワトソンというなまえだった。 とても暑がりで、夏にエアコンをつけるとバッテリーがあがった。 夏に道路を走る時も、ワトソンのためにと窓をぜんぶあけて走った。 今より涼しい夏だった。 ある日道路工事をしていて、車高がいくら…

きいろ

その部屋には少し前まで神さまが住んでいて わたしは神さまの名前を知っていた 死後、部屋には誰もいなくなって、残された家具とタバコで変色した壁 それから神さまの生活の匂いがした 片付ける身寄りの誰もいない神さまの家は 暫くはそのままになっていたか…

夏の果て

今年は涼しい日が続いているというのに 夏バテしないようにねと 友より便りが届いた 遠さ優しさありがたく ところがこちらの空を見上げても雲ばかりだ あの夏は酷く暑かった 空に青と入道雲の白 耳障りな蝉時雨の中 手は汗ばんで 繋ぐとそれだけで DNAを交換…

ポエトリーリーディング 鯨

詩人Z ポエトリーリーディング「鯨」詩:クヮン・アイ・ユウリーディング:武田地球制作:詩人Z#詩 #poem #ポエトリー #朗読 pic.twitter.com/DWLSEpSasf — 詩人Z (@poemer_z) June 10, 2019 久々と言うか、ポエトリーリーディングをしました。 最近相方さ…

子守唄

干からびた母がバスタブに沈んでいる 生きるに足が竦んだ 一歩はこんなにも遠い 二歩は尚のことだった わたしから染み出る水滴が下水へと流れていく 外からは春が聞こえる 季節を知らせる人はだいぶ遠くへと去った ひとり、春泥の中を足掻いている

わたしのあなた

幾日も過ぎ この街に孤独なわたしひとり あの角を曲がると夕焼け、辻に吹く風、線路の音はがたんがたん 空白また空白 祷りが消えて空白 何処かに閉じ込められている 一日が切り裂いている 大きな川の彼岸に立つ 11月に死んだわたしのあなた

ろくでなしにも春が来る

これでもかと言う 南天だらけだ 嫌だった わたしは全てを忘れてしまう 軒下の大根は年の終りに首吊りをする ろくでなしにも春が来る 詩人Z ろくでなしにも春が来る朗読 クヮン・アイ・ユウ&武田地球#朗読 #ポエトリーリーディング #詩 #達磨さん #春 #ろく…

うたの続き

魔法使いのあの子が ぼくがあなたの母親になるからと じゃらんとギターを鳴らして 姿を変えた夜 わたしは何度も何度も名前を呼んで 声が枯れた 幸福の鳩が飛び回る マンション7階の部屋の 1歳のわたしが泣いた同じ場所で 過去を洗いながら詩を書いた日々 か…

生き水

目を閉じてひとり 水中にて 永い夜を乞う 星空は遠く きみたちも消えた あぶくを吐いて 散り散りに哀れ ああ、これがわたしという 単細胞生物の死 ようやくの水底 一条の光 うすらわらいを照らす いのちの重力よ

ありがとうのかみさま

ここはわたしの部屋 ほんとうの光がある 空からわたしを見ている あなたたちはかみさま わたしはまいにち 憂鬱をかぞえて暮らす それなのにせかいは 愛と死であふれかえっている だから ありがとうのかみさま まだ生かされているわたしは だれか、だれか、と…

おべんとうごっこ

1、 おにぎりがうまく握れなくて泣いた、わたし 2、 からあげとミニクーパーと水筒とぼくらの季節はいつも夏 3、 弁当は折られたサカナのぎゅうぎゅう詰めだよ、ありがとう 4、 汚い手、綺麗に焼かれた卵焼き、の味

似たような線

冷たい水は「まだ死んではいけない」というのに あなたには「死ね」と言われているようだった いつもの通り道では 大して知らないおじいさんがこっちを見ている あの人には何が、わかっているのか アスファルトの中できらきらとひかっている何かは 「還れ」…

ろくでなしにも春が来る

これでもかと言う 南天だらけだ 嫌だった わたしはすべてを忘れてしまう 軒下の大根は年の終りに首吊りをする ろくでなしにも春が来る

人の形

その場所には死んだかみさまがまだ住んでいるから わたしは帽子をふかくかぶって 世の中に怒られないように静かに隠れてやってきて かみさまのことを考えたりしています 聞きたいことがあります 天国はたのしいですか わたしは赦されますか クリスマスには会…

月はひとつ

今日の月はきれいだね。と、飽きず交わした言葉でした。あなたの学の無さが、わたしは大嫌いだった。失ったあとにその意味を知らされました。 昨日は満月でした。ただそれだけの小さな命の分かち合いが、あらがえずに風に散って、夜の空気にはあなたが住んで…

存在の墓標

息をする連続に いつから慣れていたのだろう 夕焼けが 必ず朝焼けになるのは ここが地獄だからか 火葬場で焼かれたら 人でなくなる あらゆる差別や偏見から放たれるから ようやくホッとする おまえら誰一人のしらないところで わたしの父は死にました 葬式は…

わすれ形見

あろうことか忘れてしまった 声も形も温度も あたまの隅にはほんの少し なんだか無様なことばかり置き去りにされていて お湯がでなかった日のこと 起きたらひとりだったこと おにぎりをうまく握れなかったこと 三つつなぎのプリンのこと ときどき怒鳴りあっ…

未必の故意

墓石に水が流れた、 おとうさんは欄干でクビを吊った、 ぬるいリンゴ水を欲しがった 入道雲はだいきらいだ、 おとうさん、おとうさん 低かった空は、とおくなって彼方だ、 屋根に三角、たわむ電線、 季節変わりの混ざりゼミ、 ひとがみんな、畑に立てられて…

摂氏37℃

わたしの抜け殻が夏の真ん中に取り残された、そのようにつまらない孤独です。 蝉がきらいだと言ったらあの人はやさしい、蹴飛ばして退けてくれたアスファルトの上。そんなことをするものだからわたしは、ただいのちがおそろしい、生き死にを見せつけないでと…

泡(あぶく)

思い出の品もぜんぶすてないとならない海に行ったときになにも買わないでよかったもらった手紙はわたしには知らない宇宙のことばで書いてあるもう二度とよめることはないことばはそれでもまだ美しい形にみえた たった一度乗り遅れただけでもう二度と会えない…

夏のわたしごっこ

いのちがたおれるまで全力ではしろう その先で海に駆け込んでおぼれて死のう 生き死にを一方的にさかのぼり ちいさくなっても夜通し話しを続けよう 原始でもまだ笑おう 太陽がまぶしくてもう痛い ねえ、どうしても限りが在る かなしみもよろこびもただひとつ…

春呼び

めくるめいた 神か、今日は春だったのだ 何十年かまえにあの子は 隣人の幸福を願って消えた いまここで笑っているべつのあの子をみていると 神さまと呼んでしまいたくなる せめて代わりにとあの子の名を呼んだ ぼうっと、日が暮れていく 夕焼けはこんなにも…

いのちが海を呼んだ

砂粒数えてあそぶ 途方もない悪ふざけで生きてきた二人だけの果てしない海は真夜中 誰もいなくなってからようやく命がはじまる砂のトンネルを掘るうちに 世界は失われていく 気が付くと ひとり波の音をきいていた生まれてずうっと欲しかったものは ただの砂…

不揃い

ねこが急にみちにとびだしてくる 今日吹く風は神の住処をしっているようだ 雀が降下して線をえがくのに見惚れた それにしてもなまぬくい春風はちょうどあの人の温度だななんだか気味が悪いあのとき確かに とびこめ、と声があり とびこんだ場所も変哲がなかっ…

春虫

気が触れるときはいつも 生老病死がうす青空を飛翔している わたしはただの春虫 あらがえないいのちも等しく丁寧に並べられて 誰かに数えられている それなのになんだかやけに春の発声が大きく淡く聞こえている このような季節を通っていった

あの日の空は無数 

バターが溶けないうちにパンを齧る 朝の陽はいつもどうしてあたたかなのか毎日ひとつひとつを数えても ざあざあと零れていった 苦し紛れに仰げば空が 唐突なあの日の光景で あれからひとり ずっと春待ちの哀れ夜苦しさで並べたあなたからの手紙には 「自転も…

酸欠

足音は小さすぎてきこえない ピンク色の列車が走り出して 無表情がみんな詰め込まれている この先の行き止まりにもいかれないわたしは 「だれか」と その発声の仕方もとっくに忘れていた月を見ても何もおもえず だってこの公転もうたがわしい どうして大地に…

空を知っていた

「精一杯やったけど 君のために 何かなっただろうか」ようやく封をあけた手紙には 丁寧にちいさく書いてあって 17年ぶりに呼吸一つできた 窓からは夕焼けのグラデーションが見えた血肉を越したそれからの生活は 多くて何も持てなかった だいじなものは身体の…

還る

なにもなく誰もいない だから 海によばれてしまったざわめく甲高く 波が叫ぶ声をききながら 幼稚園のころから泣いてばかりいたことを 思い出した はるか彼方 海の遠くで何かが静かに痛んでいた幾つかの海を数え終えたら すこしだけ清々しくなって ああなんだ…

かわいい銃口

日々の生と死とに溺れ 溺れた魚、ようやく浮上息継ぎしてなお いま自らがたましいに突きつけるこの銃口がかわいい 引き金を引いてもいい事が無いし いっそうコストがかかるから止めた チョコレートを食べるほうが幾らかましかと計算して ようやく街にでては…