東京の外れでワトソンを殺した
ワトソンは外国の中古車でワトソンというなまえだった。
とても暑がりで、夏にエアコンをつけるとバッテリーがあがった。
夏に道路を走る時も、ワトソンのためにと窓をぜんぶあけて走った。
今より涼しい夏だった。
ある日道路工事をしていて、車高がいくらか低いワトソンは
お腹を擦ってしまってガソリンが全部出た。
幸い引火はしなかった。
市役所がワトソンの修理代を全部出すと言ったけれど
結局ワトソンはそのまま死んでしまった。
かわりに新しい車が来た。ワトソンに似たエアコンのつく車だった。
恋ヶ窪という街だった。
東京の外れの名前に引き寄せられるように住んだだけのその街で、わたしはワトソンを殺してしまった。