空を知っていた

「精一杯やったけど 君のために 何かなっただろうか」

ようやく封をあけた手紙には
丁寧にちいさく書いてあって
17年ぶりに呼吸一つできた
窓からは夕焼けのグラデーションが見えた

血肉を越したそれからの生活は
多くて何も持てなかった
だいじなものは身体の底に沈めて
歯を食いしばり凌いだ
ときどきの夜に現われる気がして
寝ずに探して足を痛めた
端々の「生きる」にあなたを数えているうちに
日に日に心がちいさくなった

「生きてますか?」ってその声が
飽きずにいまも冬の空を漂っています
わたしはといえば
あの日に重なることができないまま
ぎりぎり突っ立って
たまに精一杯に手を振っています

空が青いことはいつ思い出したんだろう
だいじなことから忘れていくけれど
吐く息の白さにはまだ気づけたりする
苦くても柔らかな暮らしを懐かしみ
もうこの座標では会えないことを思い知る

夜のひかり静か
あなたの手紙を並べている