還る

なにもなく誰もいない
だから
海によばれてしまった

ざわめく甲高く
波が叫ぶ声をききながら
幼稚園のころから泣いてばかりいたことを
思い出した
はるか彼方
海の遠くで何かが静かに痛んでいた

幾つかの海を数え終えたら
すこしだけ清々しくなって
ああなんだか
海を征服したみたいだなって
その歓びはいつもあなただけに
伝えたかった

気づくと
何年もまえにわたしたちは
とっくに波にさらわれていて
それからずっと
わざとらしい満ち引きを繰り返して
なお諦めず
母なる海にすら
抗っていた

荒々しい強さで
海はうつくしく鳴り続け
いつも
わたしを粉々に打ちのめしていて
それでもまだ還りたかった